家族が最初に知るべき対応と、相談先の選び方をまとめました。
ご家族の方へ。
いま、この記事にたどり着いたあなたは「家族がアルコール依存症かもしれない」という不安の中にいることでしょう。
お酒を飲み続けていても、外見だけは落ち着いて見える時間があるかもしれません。
けれど、それは決して “安全” を意味しません。
アルコールの作用で脳が一時的に静まっているだけで、内側の危険はそのまま残っているからです。
ただ、そのような「嵐の前の静けさ」のような時間は、ご家族が “小さな一歩” を踏み出すための大切なタイミング 。
受診の相談、電話での問い合わせ、地域の自助グループへの参加──どれも、本人ではなく「家族だけ」で始められます。

「家族が勝手に動くことは、本人を裏切ることになるのでは?」
そんなふうに感じてしまう優しい方もいます。
家族が自分たちの安全を守り、必要な相談につながることは、決して裏切りではありません。
これは、安心を取り戻すために必要な “生活の準備” です。
いま読んでいるあなたは、ひとりではありません。
ここから先は、どうか落ち着いて読み進めてください。
まず安全を守る(いま、できること)
アルコール依存症のご家族が最初に考えるべきこと。
それは「本人の回復」よりも、「まず自分と家族の安全」 です。
お酒が入ると、性格や行動が別人のように変わってしまう人がいます。
暴力や暴言、物を壊す、飲酒運転を強行しようとするなど、本人の意思だけではコントロールできない危険な症状があらわれることがあります。
危険の判断ポイント
- 暴力・暴言・物を壊す行動がある
- 家族に手をあげそうになる飲酒運転をやめられない
- 意識がもうろうとしている
- 凶器になりそうな物が近くにある
これらに1つでも当てはまれば、迷わず 110番(警察)か119番(救急) に連絡してください。
ためらう必要はありません。世間体よりも、あなたの命と安全のほうがずっと大事です。
その場を静める短い言葉
興奮している本人に対して、説得は逆効果です。以下の言葉でやり過ごしてください。
- 「いまは話さないね」
- 「少し外します」
- 「落ち着いたらで大丈夫だから」
長い説明は、火に油を注ぐだけです。
短く、静かに。「火を大きくしないこと」 だけを考えてください。
受診のはじめ方(家族が主導しても大丈夫)
アルコール依存症は、医療の支援があれば回復が可能な病気です。
しかし「本人が受診を拒む」という高い壁が、多くの家族を悩ませます。
実は、最初から本人が「行きたい」と言って受診するケースはまれです。
多くのご家族が、勇気を出して “最初の一歩” を支えています。
家族が同伴してよい
本人だけでは正確な状況を説明できないことが多いため、医師は 家族と本人の両方の話 を聞いて判断します。堂々と付き添って大丈夫です。
初診に持っていくメモ
医師に伝えるために、以下のメモを準備しておくとスムーズです。
- 飲酒量のめやす(何をどれくらい飲んでいるか)
- 困った行動(暴言・暴力・物損・飲酒運転など)
- 最近あった心配な出来事
- 服薬の有無
- 睡眠や食事の変化
地域で相談しやすい医療機関
東北会病院(仙台市)
アルコール依存症治療を専門とする病院です。
家族付き添いの受診も受け入れています。
本人に「依存症の病院に行こう」と言いづらいときは、「体の調子の相談をしたい」「眠れないから相談に行こう」 と誘ってみるのも一つの方法です。
匿名で相談する(家族だけで動いていい)
「いきなり病院に行くのはハードルが高い…」そんなとき役に立つのが 匿名相談 です。
宮城県内では、宮城県断酒会 事務局 が家族からの匿名相談に対応しています。
電話をすれば、名前を言わずにあなたの不安を聞いてもらえます。
お急ぎの場合や、声で話したい場合はこちら(タップで発信):
(平日 9:00〜16:00 / 事務局直通)
匿名相談が向いているケース
- 本人が強く受診に反発している
- 医療につなぐ前に「どこまでが危険か」の判断基準を知りたい
- 家族の心が限界に近く、誰かに話したい
- まずは情報を整理したい
自助グループの入口(塩竈断酒例会)
同じ悩みを持つ人たちが集まる場を「自助グループ」と呼びます。
宮城県仙塩地区で、家族が参加しやすい自助グループは 塩竈断酒例会 です。
だれでも参加できる安心感
- 事前予約なし で行けます
- 参加費なし
- 家族だけの参加OK
- 匿名 でも参加できます
例会の流れ
- 『断酒の誓い』の唱和
- テキスト『指針と規範』の読み合わせ
- 順番に酒害体験を語る(パスも可能です)
- 終了後の相談(匿名相談可)
例会には “ 批判しない・話を遮らない・話を外に漏らさない ” という大事なルールがあります。
” 安心して過ごせる場所であること ”が最も大事にされています。
行政相談の活用(手続き・支援の入口)
保健所などの行政相談は、医療と自助グループの「中間地点」のような存在です。
「家庭の状況を整理してもらえる」「使える支援制度を確認できる」など、さまざまな相談ができます。
仙塩地区の窓口は 塩釜保健所 です。
- 毎月1回の依存症相談会(要予約)
- 家族教室(予約不要)
- 福祉に関する手続きの相談
- 相談後に必要な支援先へつなぐ
家族を守る境界線(本人の一時的 “ 切り離し ”)
つらい飲酒問題が続くと、家族は 心・体・生活 のどれかが必ず削られていきます。
「助けたい」という気持ちと「逃げたい」という気持ちが同時に押し寄せるのは、依存症の家族としてごく自然な反応です。
境界線が必要な理由
- 家族が心中を考えてしまうほど追い詰められる
- 生活費がすべてお酒に消えてしまう
- 明日も働かなければならないのに、心配で眠れない
- 逃げ場がなくなってしまう
今日から使える会話メモ(家族 → 本人)
アルコールが入っている本人に、理屈による “正しい説得” はほぼ通じません。
必要なのは、火を大きくしないための短い言葉 です。
火をつけない言葉
- 「いまは話さないね」
- 「私は大丈夫だから、安心して」
- 「落ち着いたら、少しだけ聞いてほしい」
危険を感じたとき、その場から離れる言葉
- 「少し外の空気を吸ってくるね」
- 「またあとでね」
- 「ごめん、席を外すね」
まとめと行動3択(受診・匿名相談・自助グループ参加)
最後に、今日からできる行動を3つに整理しました。
ハードルが低いと感じるものから選んでみてください。
行動A|医療につなぐ(東北会病院)
受診の目的は「本人を責めるため」ではありません。家族が安全に暮らすための第一歩です。
医師は家族の同伴を歓迎しています。説明が難しければ、メモを渡すだけで大丈夫です。
行動B|匿名相談につなぐ(宮城県断酒会 事務局)
受診が難しいときや、まず情報を整理したいときは、電話での匿名相談が役に立ちます。
「本人が反発している」「どこから手をつければいいかわからない」といった今の状況を、短くても大丈夫なので伝えてみてください。
行動C|自助グループに行く(塩竈断酒例会)
- 予約不要、参加費無料
- 黙って聞くだけでもOK
- 参加者名簿に名前を書かなくてよい
例会の外に話が漏れることはありません。安全な場で、あなた自身の心を休ませてください。
📄 塩竈断酒例会の開催日程は、PDFで確認できます。
日程表を見る(PDF) ※ 事前予約は不要です
すぐにできるチェックリスト
- 初診用のメモを書いてみる
- 相談先の電話番号をスマホに登録する
- 例会の開催日を手帳にメモする
- 110番・119番 をすぐに押せるようにしておく
よくある質問(FAQ)
Q:断酒は一生続けなければなりませんか?
A:治療方針は医療機関や個人の状況で違います。断酒会は「断酒」を前提にしていますが、医療機関によっては「減酒」の治療を選ぶこともあります。まずは相談してみてください。
Q:再発したらどうすればいいですか?
A:責める必要はありません。依存症は再発しやすい病気です。「またか」と思わず、専門機関に再びつなぐだけで大丈夫です。
おわりに
いま感じている苦しさは、永遠には続きません。
アルコール依存症からの回復を、家族の努力だけで進めることも難しいでしょう。
回復の兆しは本人の中に生まれる “小さな気づき” が重なり、すこしずつ形作られていくものです。
その瞬間が訪れたとき、お酒にとらわれない「あの頃の優しい表情」へ、ふと戻ることがあります。
あなたが、その瞬間に立ち会えますように。
そして、あなた自身の毎日が少しでも軽くなりますように。
この記事が、あなたの最初の一歩になれば幸いです。
執筆:ライター すがわら☆とくお

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